昔々あるところに、(他人の血を吸って染まった)真紅の頭巾が大好きな、それはそれは愛らしい女の子がおりました。



彼女の名は 『 戦 慄 の 赤 い 乙 女 』 ― 通称赤頭巾 ―

並み居る猛者を蹴散らして、歯向かう者を容赦なく殲滅する素敵女の子です。

彼女に打ち倒された者たちは彼女を恐れ、畏怖と尊敬を込めて今日も叫びます。


「赤頭巾が来たぞ!!!」


そんな、日々バイオレンスと血と殺戮に明け暮れている赤頭巾ですが、今日は彼女のおばあさんの具合が悪いと言うことで、
ヒットマンやスナイパーに警戒して隣村までお見舞いです。

赤頭巾がヒットマンて。

普段どのような生活をしておいでなのでしょうね彼女は。


物語は、そんな彼女の日常とは裏腹な、ごくごく穏やかな風景から始まります。

舞台は冬木村のとある一角にある、古びてはいるけど、綺麗に手入れをされた洋館から始まります。







ガタガタ ガタガタ


「……」

ガタガ  ガガガガガガタタン   ガッタン  バギャ…


「……ふぅ」

立て付けの悪い重そうな扉は、まるで性質の悪い夢のように、ひとつの白い小さな手で破壊されました。

粉微塵に。

「全く、士郎の奴ってば、あれだけ扉を直しておいて頂戴ねってお願いしたのに。結局そのままじゃない」

今まさに悪夢のような所業をしでかした人物は、重そうな扉をこれ見よがしに蹴り付けて薙ぎ倒すと、ふわりと軽やかに玄関から飛び出してきました。

艶々と匂い立つような黒髪、ぱちりとアーモンド形をした瞳は、意思の強そうな翡翠色。

雪原のような真っ白な肌には、今は薄く血色が透けて紅潮しています。

まるで精巧な人形のように美しい娘でしたが、そのキラキラと瞬く碧い瞳が全てに力強さを与え、無機質な人形のイメージを消していました。

初夏の清々しさと、大輪の薔薇のような魅力を併せ持つ娘は、真っ赤に染められた大きな頭巾を被っていました。


彼女の名は赤頭巾、 ――俗に言う、いわゆる独裁者です――


そんな肩書きとは裏腹に、あくまで外見上は可憐で華奢な娘である赤頭巾は、しきりに何かを探しています。

「士郎、士郎!!」

ぱたぱたと、玄関横の格子の間や庭にあったテーブルの上、果ては花壇の縁にまで目を凝らします。

「ねぇ士郎ってば!!」

探し物が中々見つからないのか、赤頭巾は建物の中の誰かに大声で問いかけます。

「どうした遠坂?なんか騒がしいけど、今日は一撃必殺全滅ガンドの練習はいいのか?」

がたんがたんと、ともすれば扉と同じ末路を辿るかもしれない玄関に危惧を覚えたのか、家の中から小柄な人影が出てきました。 小柄な人物は手の中に洗濯物らしい布を抱えています。

「凄いよなぁ昨日なんて大地がいよいよ割けるかと思ったよ。遠坂のガンドの威力は、すでに惑星破壊レベルだよ」

本当に感心したように、士郎と呼ばれた少年は、昨日あわや大惨事となる予定だった大地に視線を馳せました。

「それは帰ってきたら勿論するわ。こういうのは、日頃の鍛錬がモノを言うんだから。ってそうじやなくて!!」

くるりと、目的のものが見つけられなかった赤頭巾は華奢な身体を精一杯伸ばして少年に向き直りました。

整った柳眉が、怒ったように寄せられています。

「今日はっ、隣町までお見舞いに行くって言ってあったでしょう?何も用意してない訳っ?」

「お見舞い?誰の?」

「アーチャー(おばあさん)のよ!!」

怒りと呆れを半分に織り交ぜたような複雑な表情で、赤頭巾は少年に詰め寄ります。

「ああ、そういえばそんなような事を聞いたり聞かなかったり」

赤頭巾の大きな碧い目に見詰められて、少年は少したじろぎながら答えます。

「言ったわよちゃんと。明日、アーチャー(おばあさん)のお見舞いに行くから、ちゃんとケーキと紅茶を用意しておいてねって」

なのにどこにもないではないかと、赤頭巾は洋館と庭を囲むように指差しました。

「…別にお見舞いなんか行く必要ないだろアイツに。そもそも本当に具合が悪いのかどうかも怪しいのに」

人の良さそうな少年には似つかわしくない表情が彼の顔を覆いました。

不貞腐れたような声音で呟かれた言葉に、赤頭巾は今度こそ呆れたように溜息をつきます。

「そりゃ私だってアイツが体調崩したなんて最初は信じられなかったけど、昨日の声を聞く限りでは本当に具合が悪そうだったわ。
私に対してそんな演技する必要性なんてどこにもないし、本当に具合が悪いのよ。たまにしか顔も見せてくれないし、折角だからお見舞いに行くついでにご機嫌伺いにでも行こうと思ったのよ」

寄せられた眉根をほどくと、赤頭巾は今度は柔らかく微笑みました。

美しい面に優しい微笑が浮かぶと、内面はどうあれ、その姿はまるで一枚の絵画のように尊いものでした。

「…遠坂がそう言うなら、きっとそうなんだろうな。―――む、じゃ、悪いけど少し待っててくれよ。すぐ用意するからさ」

その微笑に仕方なさそうに少年は折れると、先程とは打って変わってきびきびとした動きで洋館に入っていきました。

「ありがとう士郎、お願いね。ケーキと紅茶と花束よ。花はちゃんと丸くブーケにしてね。せいぜいアーチャーが嫌がりそうな可憐で鮮やかな種類にしてね」

「…要求増えてるし。しかも見舞いなのに嫌がりそうなもん贈ってどうすんだよ」

「ふふふ、私がただでお見舞いになんて行くと思って?」


―― にこりと ―――


先程見た天使の微笑はどこへやら。背筋の寒くなるような悪魔の笑顔を見たと、少年は慌てて作業に取り掛かかるのでした。
















 も う こ れ 赤 頭 巾 じ ゃ あ り ま せ ん か ら っ !!!


どこにも赤頭巾の片鱗が見えません。

どこをどうやったら物語が進行するのか皆目見当も付きません。
てゆーかまたパロかよという罵詈雑言はキコエナイ。







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