士郎(お母さん)が台所に入ったまま、3時間が経過しました。







ピーチチチチチ…




ぱたりと、真っ白な鳥が数羽、木々の間でじゃれ合いました。

まわりを深い森で囲まれた冬木の村は、こうした可愛らしい動物達が今も人のずっと近くで暮らしているのです。


ピチ、ピチチチチチチチ


太陽の位置がより天へと近付いた頃、ようやく台所で物音がしました。


「お待たせ遠坂!」



キュイン



「一体」



キィィィィィィィィィン



「見舞いの支度に」



ジジ、ジジジジジ、ジ



「 何 時 間 か か る の よ っ ! ? 」




ヒュゴウ   ガンガンガンガンガン!!!!


満足そうな笑顔で台所からかけてきた士郎(お母さん)に、赤頭巾は念入りに込めた赤い閃光をお見舞いしました。

「うわっいきなりガンドかますなよ!!死んだらどうするんだよ!!」

士郎(お母さん)は、突然襲った理不尽な暴力に、それでも腕の中のお見舞いの品は死守しました。

うっかり涙が出るほど主婦の鏡です。

「そうなったらいいなって念じながら撃ってるんだから当たり前でしょ」

「体調不良にするだけの魔術を致死レベルで撃つな!!あと殺人前提にして人に向けるな!!」

「日頃の鍛錬あっての賜物よ」

「…そんなもの賜りたくないし」

でも、士郎(お母さん)のまともな説教を右から左へ受け流す赤頭巾は、そんな士郎の言葉にびくともしません。



これくらいでめげるようなら、最初から世界の覇王になんてなってませんから。



赤頭巾は、とりあえず支度に3時間もかけられたことにご立腹のようです。

「…あぁ全く、事あるごとにガンドで撃ち殺されて堪るかって。――はい、ご所望のケーキと紅茶。紅茶はいい茶葉があったからコレ。花束は諦めろ、花がない。道すがら適当に摘んで行ってくれ」

「……ちょっとナニコノちからの入りまくったデコレーションケーキは。アンタこれ作るために3時間もかけたわね」

赤頭巾は、はいと大切そうに渡されたお見舞いの品に思わず凍りつきました。

「え、普通だろ?」

大きな白い箱に入ったケーキを手渡しながら、士郎(お母さん)は不思議そうに首を傾げました。

「士郎の料理に対する“普通”の認識は絶対おかしい」

蓋を開けて中身を確認した赤頭巾は、この上もなく胡散臭そうな視線で、士郎(お母さん)を刺します。

「…う、な、なんだよ」

「なによ、散々アーチャーのお見舞いは渋ったくせに、持って行くケーキには力が入るなんて、変よ」

「だって!?適当なもの持っていったら俺がいびられるだろ!!!ネチネチネチネチネチネチと姑かアイツ!!!下手なものなんか持っていけないだろう!!?」

だんだんと、その場に地団太を踏むように士郎は苛立たしげに足を鳴らします。

どうやら士郎(お母さん)は、昔アーチャー(おばあさん)に料理に関して手酷く苛められたようです。

「ふぅ〜ん…」

「ナンデスカその疑惑の眼差しは」

「別にぃ。ただ、ああ士郎お前もかって、ちょっと感慨深げに思っただけ」

ふっと、少しだけ悲しそうに細められた翡翠の目が遠くを見ます。

「待て遠坂そのあからさまに疑ってますっていう疑惑の目やめて!!不名誉な疑いを持ったまんま行くな!!!」

「ま、いいわ。士郎がそれを望むなら、私から言うことは何もないもの」

「お願いです遠坂様勝手に物語作ったりしないでくださいこれそういう話じゃないから断じて」

瞼を下ろして、切なそうに溶けた感情をきれいに隠すと、赤頭巾はにっこりと笑いました。

「じゃあアーチャーのお見舞いに行ってくるわ。……確認するけど、このケーキ変なものとか入れてないでしょうね。――たとえば媚薬とか」

「入れるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

士郎の嘆きとか弁明とか懇願はあっさりスルーの方向で、赤頭巾はくるりと籠を揺らすと、深い森へ足を向けました。

「そ。ならいいわ。じゃあ行ってくるわね」

「こら待て果てしなく巨大なしこりを残したまま爽やかに去ってくな置いてけぼりかよ俺待ってください遠坂ぁぁぁぁぁぁ!!!!!(絶叫)」


「俺は無実だぁぁぁぁぁ!!!」と、最後に士郎の絶叫だけを残して、冬木の村の古びた館から、舞台は黒く深い森へとその場所を移します。
















 も う こ れ 赤 頭 巾 じ ゃ あ り ま せ ん か ら っ !!!(パート2)


ただの士郎苛めですよこれじゃあ。

まぁ士郎くんは出演したら必ず苛められる可哀想な運命の子ですから(そんなFateいらないよ!!)








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