ところ変わってここは隣村に通じる小道。黒くて深い、森の入り口です


傍らには可憐な花が咲き乱れ、まるで赤頭巾の道行きを祝福しているようです。



そんな訳ないんですけどね。



赤頭巾はひらひらと舞う蝶を愛で、しかし視線は冬眠明けの熊ですら眼光だけで射殺せそうなほど強烈でした。

なんせ隙を見せたら瞬殺ですから。

遮蔽物のない(赤頭巾にとって危険な)小道を抜けると、こんどは深い森の中です。      
☆言うまでもなく遮蔽物のない小道は、一般人にとってはただの安全な道です。


四方に神経を研ぎ澄ませ、赤頭巾はお見舞いの品を抱いて用心深く道を進みます。

と、前方に無防備に立つ人影がありました。

赤頭巾は先手必勝とばかりに攻め入ります。

ここでは油断したほうが負けなのです。


それどんな戦場?


「殺(と)ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「はいぃぃぃぃぃぃっ!?」


キュゴウ ガスガスガスガス!!!!


丹念に練り上げた赤頭巾得意のガンドは、しかし人影によって辛うじて弾かれました。

「相殺したですってっ!?一発で仕留められるように威力を上げたのにっ!?アンタ、何者!!!」

「そりゃこっちのセリフだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

ダン、と、人影は赤頭巾のガンドを跳ね返した赤い獲物を地面に突き刺し子供のように叫びました。

「なんで出会い頭に初対面の人間に殺されなきゃいけねぇんだよっ!?」

「そういうルールでしょ」

「どこのどの世界の誰が決めたルールだそりゃ!!」

「こんなところを無防備に歩いてるのがいけないのよ」

「聞けよ人の話!!こんなところって、ここって公道じゃねぇのかよ皆のための安全な道じゃねぇのかよっ!?」

「…ここが安全だったのなんて、遠い昔よ」

ふっと、赤頭巾は唇を歪めて笑いました。

「何その無理やりなシリアス風味。いやいや待て待てとりあえずアンタの正体から聞こうじゃねぇか。それから今の殺人未遂について訴えるからな」

ヒートアップしかけた人影、―――精悍な蒼い狼は、本能のまま食い千切りたい衝動をなんとか抑え込みました。

ぴくぴくと長い耳は震え、鋭い牙は今まさに赤頭巾の細い首に喰らい付こうとしています。

「出会い頭に瞬殺確定の魔術ぶっ放すなんて、素人じゃねぇなアンタ?薬草で匂いを消したって、俺の優秀な鼻はあんたが纏う血の臭いがわかるぜ?」

アンタ一体、どれだけの返り血を浴びた?と、視線で問いかける蒼狼に、赤頭巾は冷ややかな一瞥を与えました。

「ふん、別に隠してるわけでもなんでもないんだけどね。ただ血の臭いが嫌いなだけよ」

頭巾から零れる黒髪を払うと、赤頭巾は大層偉そうに蒼狼の前に立ちました。

「…でも、貴方、この地において私を知らないなんてモグリねさては」

「………お前一体どれだけの地位に君臨してんだよ」

赤頭巾は自分を知らない無礼な蒼狼に、気分を害したようです。

「貴方、この、真紅の頭巾が眼に入らないのかしら」

「頭巾だと…?」

ぴくりと、蒼狼の耳が揺れました。

一歩下がり、じっと少女の全身を検分します。

首元で可愛らしく結ばれた赤いリボン、白いエプロンドレス、ゆったりとしたスカートから伸びる足は若木のようで。

そして、赤い赤い彼女の頭巾。

その赤さは、まるで他人の血を吸ったように鮮明で…。

「っ!!あ、赤い頭巾だとっ!?嬢ちゃんもしや、あの悪名高い戦慄の乙女、赤頭巾かっ!!??」

蒼狼のルビィ色の目がおどろきと恐怖に大きく開かれます。

「そうよ。っていうか誰が悪名高いのよ失礼ね。ただちょっと有名なだけよ、魔術の教養と容姿の美しさで」

「言い切った!!つーかやっぱここを無法地帯にした原因は嬢ちゃんじゃねぇかよ!!」

「無法地帯になったのは足りない脳みそで無謀にも私に挑戦してきた愚か者のせいであって、私のせいじゃないわよ」

「原因思いっきりアンタだろ!!!」

「そんな過去のことなんか心底どうでもいいのよ」

「よくねぇって絶対」

「ああもういちいち細かい狼ねぇ」

赤頭巾は面倒くさそうに溜息をつきました。

「私が赤頭巾だったらどうなのよ狼さん。で、結局アンタは何者なの?花も恥じらう多感なお年頃の乙女に先に名乗らせておいて自分だけ言わないなんて、少し卑怯じゃなくて?」

「…突っ込みに忙しくて自己紹介どころじゃなかったんでな、悪かったな」

ぐりぐりと疲れたように自分の眉間を揉みながら、蒼狼もやっぱりダルそうに溜息をつきました。

「俺はこの黒い森の外れに住んでる蒼狼のランサーという。ちぃと小腹が空いたんでな、なんか獲物がねぇかとぶらぶらしてたんだがよぅ…」

ちろりと、ランサーのルビィ色の目にうっすらと獣線が浮かびます。

「何よ」

「美味そうな匂いに釣られて歩いてたら、嬢ちゃんに遭遇してよ。こりゃいいやと思ったんだが……」

ランサーの蒼い耳と長い尻尾がぺたりと力なく垂れました。

「すっごくすっごく物凄く相手が悪かった」

「そこから一歩でも動いたら即ハチの巣よ」

「だから!!手なんて恐ろしくて出せねぇよ!!!腹満たすのに命がけかよ!!!」

「野生動物なんてそんなもんでしょ」

「思いっきり畜生扱い!?」

食料探してうっかり広域指定災害に遭遇かよ!!!

狼のランサーは思わず自分の幸運値の低さを呪いました。

知ってたけど、知ってたけどなんかこう納得できないんだよこの待遇!!!

森に向かって思わず雄叫びそうになるのをなんとか我慢し、ランサーはうんざりと赤頭巾と対面しました。

「攻撃の意思はないんで、とりあえず話進めていいかよ赤頭巾さん」

両手を挙げてホールド。僕全く貴方に刃向かう気なんてないですよと意思表示。

「別に貴方に構ってる時間的猶予はないから、いいからさっさとどっか消えて」

「いきなり人抹殺しかけた奴のセリフかそれっ!?先に絡んできたのそっちだし!!終いにゃ喰うぞこの餓鬼!!!」


ドガン


「何か、言ったかしら、今」

赤頭巾が繰り出したガンドは、森の地面に巨大なクレーターを作り出しました。

大木に居を構えていたリスは去り、隣の木の枝に巣を作っていた小鳥達は逃げ出します。

気がつくと、赤頭巾と狼の周りには森の動物達の気配がきれいになくなっています。

周囲はじっと息を潜め、森の木々や花々も心なしか瑞々しさを失っているようです。

「今ココで12回ばかり連続で殺されるのと、素直に今の暴言について土下座して謝るのと、私、慈悲深い大人だから選ばせてあげるわよ?」

「本当に生意気言ってすみませんでしたいやマジ勘弁してくださいこの通り平に謝り倒します」

長い手足を折りたたみ縮込ませ小さくなって震えながら狼は謝ります。

赤頭巾はその様をうっとりと眺めると、ようやっと気が晴れたように微笑みました。

「素直な人は好きよ。最初からこうだったら、私もここまで無駄な時間は過ごさなかったのだけど」

がたがたぶるぶる震える狼を足蹴にしながら、赤頭巾は、満足そうに唇を緩ませるのでした。



















赤い悪魔(赤頭巾)によるランサー苛め話?

これ本気でただの苛めだよ。

しかもかなりDVだよ。

調教と言い換えても過言ではな…(黙れ)

士郎だけじゃ飽き足らず、ついに蒼い狗まで…。

私の中の凛様のイメージが大変なことになってるよ!!








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