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ついにめそめそと泣き出してしまったセイバーに、不謹慎ながら愛しさを募らせる。
なんというかマイナスイオン?
うっかり癒されそうになって、慌てて姿勢を正す。
セイバーは本当に嫌がっているんだ。こんな風に茶化したり愛でたりするのは失礼だろう。
そう思って桜と遠坂を見たが、…思いっきり愛でてます的な表情でぞくぞくと肩を震わせていたので閉口する。
もっと親身になってやれよ二人とも…。
特に遠坂。お前は拒否権なく萌姿に強制的に変えられる辛さを知っているはずだっ!!

「じゃあ衛宮くんはこの姿のセイバーに何も思わないの?可愛いと思わない?」

「可愛いに決まってるだろっ!!いやむしろ推奨バッチ来いだっ!!!」

「シロウ…」

一瞬セイバーの新緑のような瞳が鈍い金色に変わったような気がしたが、気のせいだろう。
うん、きっとそうだ。

「と、ともかく真面目に考えよう。セイバー、昨日何か変なもん食べたりしなかったか?」

こほんとワザとらしくひとつ咳払いをすると、白々しいと言わんばかりの遠坂の視線が痛かった。
この際お前も十分同罪だと思うんだが…。

「そうですよセイバーさん。道端に落ちてたものを拾って食べたとか道行く人から貰ったものを食べたとか、先輩が作ったもの以外で何か口にしましたか?」

「セイバー、貴女あの金ぴかとか藤村先生とか、そーゆー怪しい人物から施しを受けたりしなかった?」

「…遠坂、藤ねぇはあのギルガメッシュと同列の扱いなのか…?」

「ある意味盲点で大穴かもしれないでしょ。あの突き抜けた我が道っぷりは金ぴかに負けず劣らずよ」

「…貴方たち、私はいつもいつも何かを食している訳ではありませんよ」

セイバーがこうなってしまった原因を追究するため、俺たちはとりあえず思いつく限りの異常への因子を挙げていく。
しかしそのほとんどが食に偏ってしまうのは、相手がセイバーでは仕方のない事だと思うぞ、うん。

「え〜、でも1日の4分の3は食事でしょう?私、セイバーがご飯食べる以外に自発的に何かをしてる姿って見たことないんだけど」

「…ごめんなさいセイバーさん。その、私も、セイバーさんがご飯を幸せそうに食べてるのしか見たことなくて…」

「いやほらセイバー。俺たち作る側の人間からすれば、すごく嬉しいことなんだぜ?いつも嬉しそうにご飯食べてくれるのって!!」

「そうですよセイバーさん!!美味しそうに食べてくれると、また頑張って作ろうって気持ちになりますから!!」

自分の殻に篭り始めたセイバーに、慌てて俺と桜は苦しいフォローをする。
あながち桜と遠坂の言い分も間違ってないから痛いよなぁ。

「突然こんな異常が起こったって事は、やっぱりそれにつながる何かがあったということよ。昨日、何かいつもと違うことはなかった?」

「違うこと?」

「そうよ。ほんの些細なことでいいのよ。それこそその日の天気とか、気温とかね。 とりあえず直接の原因は不明だけど、それに至るまでの何か外的要因が複雑に絡み合った結果っていう可能性も否定できないし」

「…複雑に絡み合った割にはその結果がピンポイントでコアなお友達向きな展開じゃないか?」

だって耳だし

「うっさいなぁ知らないわよそんなこと。抑止力が働いたか誰かの趣味でしょ? ともかくなんかないの?昨日だけ食べたものとか、その日に限って行ったこととか」

抑止力と誰かの趣味を同異義で語らないで欲しい…。
世界もそんなもんと一括りにされたら嫌だろうに。

「昨日、は、一日家にいましたから、外界からの接触の可能性は低いでしょう。この家にいた人間というと…」

姿勢美しく正座し、セイバーは昨日の出来事を噛締めるようにゆっくりと思い出す。

「シロウ、凛、桜は言うに及ばず、ライダー、タイガとは食事を共にしたので覚えています。あとはアーチャーがおやつを作ってくれて…」

「…どうしても食事に付随する記憶なのね」

「…アーチャーの野郎、何セイバーを餌付けしようとしてんだ」

こくこくと指折り数えながら、セイバーは尚深く記憶の渦に身を沈める。

「あとは、――そう、昨日は確か、他にも珍しい人物がいて……」

「!あ、そういえば、昨日はイリヤが珍しく遊びに来たんだ」

「そういえばランサーさんも、お昼時にいらっしゃって、ご飯を食べていかれましたよね」


イリヤとランサー。
日常を送るうえで、そこはかとなくイレギュラーくさいファクターに、遠坂の目がきらりと物騒な光を浮かべた。

「そう、イリヤとランサーが遊びに来てたの…。私はお昼は席を外していたから知らなかったけど、あいつら何しに来たの?」

「何しに…?イリヤはともかくランサーはなぁ…。何しに来たんだろうなアイツは」

「確か、港で釣った魚が大量だからって、お裾分けしてくれたんですよ。ちょうど見えたのがお昼時だったので、そのままお昼も食べていかれたんです」

その情景をリアルに想像できたのだろう。遠坂の顔が嫌そうに歪んだ。

「相変わらずご近所付き合いに卒のない奴ね。ここまで馴染むといっそ現代で人間はじめたら?って感じだけど」

その愛想のよさ、うちのアーチャーにも分けてくれないかしら、と何やらぶつぶつと呟いていたが、ランサーの愛想の良さが加わったアーチャーなんて、 恐怖の対象でしかない。
対人関係を卒なくこなす皮肉屋なんてありえない。

「イリヤとランサーか…。そこはかとなく陰謀の匂いがしてきたわね」

ぎらりと、遠坂の瞳が獲物を定めた肉食動物のように瞬いた。

「陰謀って、ランサーは本当に釣った魚届けてくれただけだぜ?それに陰謀だなんて、一番ほど遠い所にいるんじゃないか、アイツは」

裏切りや策略といった黒い感情を嫌う光の英雄が、こんな下らないことをしでかすだろうか?
ふと、青空を写し取ったかのような爽快な姿を思い出す。

「ランサーさんがこんなことをして、何かメリットがあるんでしょうか…」

ぽつりと桜が俯きがちに呟く。
遠坂も口に出してから可能性は低いと踏んでいるのか、あまり興味のなさそうな顔をしている。

「ま、確かにそうよね。アイツがこんなことして得することなんて…、あの金ぴかに、セイバーの写真でも売りつけて弱みを握ることくらいかしか……」

「「――それだっ!!!!」」





「殿中でござるーーーーーーーっ!!!!」



がしゃ――――ん



うっかり頷きかけた次の瞬間、とてもとても想像したくない音が玄関から聞こえた。

…いや、正確に言うならば、玄関が元々あった場所から、かな。
なんかこう、赤光と共に玄関の引き戸が宙を舞う様子がリアルに想像できるんですが。
玄関が粉微塵に粉砕される音を聞いてから刹那、長身痩躯の影がゆらりと居間に現れた。
撒き散らされる木屑と砂煙に、一際鮮やかな色彩が視界を占める。
2mを超えるかと言う真紅の獲物を持ち、蒼天で染めこんだような綺麗な頭髪。
真っ赤なルビーみたいな目が、ぎらぎらと獰猛な光を浮かべていた。


「てめぇら一体なんてことしやがるっ!!!!!!」


犬歯を剥きだしにして吠える狂犬に、それはこっちのセリフだよと涙ながらに訴えたい。


またひとりモノの大切さを説教しなきゃいけない馬鹿が増えたなぁ…。

















士槍?槍士?ってゆーくらい、士郎さんの槍の描写が細かいんですが。
…愛?
まぁシロウの人生に後にも先にも多大な影響も及ぼした人ですし。
ちなみにこの先色っぽい展開は欠片も望めませんから。
待っているのは精々正座で説教でしょう。
しかももれなく衛宮邸居候全員と。
ある意味ハーレムか?











 

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