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「だから、私じゃないわよ」






がばっと再び一同の視線を集めた遠坂は、その非難の眼差しをものともせずにけろりと答えた。

「嘘だ!!!(ひぐ○し風に)」

「だ・か・ら・わ・た・し・じゃ・な・い・って・ば」

文句があるならベルサイユにいらっしゃいと言わんばかりの圧力に、ぎりぎりと自分の声帯が圧迫される。
これ以上の反論は死を招くと本能的に悟った一同は、その矛先を何故か俺に向けた。

「おい坊主、いくら強要されたからってこの仕打ちはあんまりじゃねーか?」

「…シロウ、どんなことを強いられても、間違ったことは間違っているといえるのが貴方の美徳だったのに。…残念です」

「先輩、先輩がそんな性癖の持ち主だったなんて…。でも、でも私はそんな先輩でも受け入れていけます!!」

「やだわ衛宮くん。こんな愉快なこと思いつくなんて、貴方中々見所あるわ」

「ってちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇいっっ!!!!!」

悪者おれっ!?
身に覚えのない悪事の濡れ衣を着せられてるんですけどっ!?
この世全て悪、もといこの世全て不条理を煮詰めて人型に流し込んで固めると、きっとエミヤシロウって言う人間が出来上がると思うな!!

「なんでいきなり俺っ!?てゆーか常識的に考えてここは遠坂だろっ!?」

「ここにきて本音が出たな」

「だからぁ、何度も言うように、本当に私じゃないんだってば」

「説得力ないからっ!!」

「だがまぁ、坊主にこんな芸当が出来るとは思えねーけどな」

「…確かに、シロウの常にガス欠的な魔力ではこんな大それたことは出来ないでしょう」

――――あ、なんかそういう風に納得されると流石に俺も傷つくんですけど。

「本当に、嬢ちゃんじゃねーんか?」

底を見透かすような真紅の目に射竦められ、それでも遠坂は臆すことなくきっぱりと言い切った。

「しつこいわねアンタも。女性に執拗に絡む男はモテないわよランサー」

遠坂の淡い薄桃の唇が、艶やかな弧を描いて歪む。

「情熱的だと言ってくれ。俺もねちっこいのは性に合わねぇし」

筆で描いたような眉を器用に跳ね上げると、ランサーは遠坂の小さな顔を眺めた。
相対する相反する色彩に、しばし場の空気に緊張が生まれる。

ごくりと、我知らず唾を嚥下する音が聞こえた。

あの赤いあくまと渡り合うとは、流石稀代の英雄、クー・フーリン!!
アンタこそ漢の中の漢だっ!!

たとえその姿が獣耳つけてようがふさふさの尻尾を付けていようが、だ!!!

「……本当に、なんも企んでねーみてぇだな」

酷く気が抜けたような声音で、ランサーの耳がへたりと心情を表すかのように下がる。

「何度もそうだって言ってるでしょ?そもそもそんなことして、私に一体どんなメリットがあるって言うのよ。やってみたところでちょっと面白いわ、くらいの感想で終わるじゃない」

「嬢ちゃんだったらそれくらいの理由でこーゆー大掛かりなことしでかしそうかと思ったんだがなぁ…」

ごめんランサー俺それに反論できない。

やる。遠坂だったら面白そうだから、ってゆー理由でどんなことでも、やる。
絶対やる。

「えぇっ、っつーか、アレか。嬢ちゃんが首謀者じゃないとしたら一体何が原因なんだっ!?俺はてっきりこの屋敷に邪悪な魔法陣かなんかが敷いてあると思ったんだが…」

「そんなドス黒いもん家の中にあったら流石に誰か気付くって」

「あ、ほらよく言うじゃないですか。木を隠すなら森の中って」

「あら桜、それ自虐ネタ?その言いようから言ったら、自分はドス黒いですって名言してるようなものじゃない?」

「ふふ、姉さんったら。別に自分のことを指して言っているわけではないんですけど」


びきり


俺に特殊な目があったら、絶対今空間に亀裂が入った瞬間が見れたと思う。
…てゆーかたとえなくても今確実に何かが壊れた音がしたよ。
ヤメテヤメテこれ以上おうち壊さないでーー。

唐突に勃発した第6次遠坂姉妹腹黒戦争に、セイバーが慌てて仲裁に入る。

「落ち着いてください凛、桜。今は姉妹喧嘩よりも原因の究明が先です。このままでは私もランサーも不名誉極まりない姿で一生を過ごすことになってしまいます!!」

「可愛いし、害もないし、別にいいんじゃない?」

「よく(ねぇよ)(ありません)!!!」

至極残念そうな遠坂と桜に、セイバーとランサーが揃って反論する。
まぁ、嫌だよなぁいくらサーヴァント(従僕)だっていっても。
その姿で現界してるのは。

「大体ねぇ。皆揃って私が原因みたいな言い方してるけど、私は昼は外出してて衛宮の家にはいなかったのよ?どうやってこんなことできるのよ」

「遠隔操作か、時限式じゃねーのか?その場にいなくとも、タネさえ仕込んどけば、嬢ちゃんほどの魔術師なら造作もねぇだろ」

「だからそんな労力使ってまで、一体私何がしたいのよ。全く心の贅肉だわ。無駄は嫌いなのよ」

「んなことする理由なんて知らねぇけどな。この家自体に何か強力な呪いでもかけてるのかと…」

「それこそ誰か気付くでしょ。セイバーなんてずっとこの家にいるのよ。それに、だったらライダーはどうなるのよ」

「ライダー?」

今初めてその存在に気付いたとでも言うように、ランサーが驚いたように目を見開いた。

「そうよ。ライダーも常時この家にいるけど、彼女にはこの異常は見当たらなかったわ」

「本当かマキリの嬢ちゃん」

「え?あ、はい。朝にライダーの部屋に寄ったんですが、ライダーの頭には可愛らしい耳は付いていませんでした。全部を確認したわけではないので、尻尾があったかまでは分かりませんけど…」

いきなりランサーに話しかけられて、驚いたように桜が顔を上げたが、ランサーにとって不利にしかならない情報しか持っていなかったので、申し訳なさそうに俯く。

「するってーと、なんだ。ここにいるサーヴァント全員がこんなふざけた状況になってる訳じゃねーんだな?」

「そうね。確定は出来ないけど。まだ1名消息不明な奴がいるし」

「なんだ、何が一体原因なんだっ!?苛めか?天罰かっ!?チクショーそんなに俺が憎いのか!!」

あ、ランサーあえてスルーしてる。
この家にいる全部のサーヴァントってあたりを軽くスルーしてるが、まぁいいと思う。
その意見に大賛成だ。双方の精神状況においても。
ただ一応今起こっている現状を全て把握しないことには、やっぱり原因の究明は難しいんじゃないかと思う。
ランサーは今持ち得る全ての情報を繋ぎ合わせ、推理し、そこから幾許かの結論を導き出そうとしている。

「俺とセイバーにこの異常が起きてるってことは、ココでの何かが原因なのは確実だ。他に接点なんてねぇしな。だがずっとこの屋敷にいるライダーにはなんの症状も出てないってことは…」

ぶつぶつと、その見かけに反して聡明なランサーの頭の中では、様々な可能性が駆け巡っているに違いない。

「マキリの嬢ちゃん。昨日、ライダーはずっと家にいたか知ってるか?」

「…いえ、お昼からアルバイトのために外出しています。他にも用事があるといってたので、お昼前には外に出て行ったと思いますが」

「何!?…じゃあ昨日の昼は、ライダーはこの屋敷内にはいなかったってことか?」

「はい。アルバイトが終わってからは、帰ってきて夕食を皆で食べているので、夜にはちゃんとここにいました」

そうですよね、と同意を求めるように桜の視線が一同を見渡す。

「確かに。急ぐ用事があると言っていたので、折角シロウと桜が用意してくれた昼食も食べずに出て行ったのです」

ご飯を食べなかったこと自体が罪とでも言うように、セイバーがぴこぴこと耳を揺らす。

「まあ昼飯は余っても誰かが食べてくれるから別にいいんだけどな。で、それと入れ替わるようにアンタとイリヤが来たんだよ」

「あ〜、そういやそんなこと言ってたな。そっか、、俺タイミング良かったんだな」

どこかの誰かっぽくふむふむと頷くと、ふとランサーの顔が引き攣る。

「…ん?」

「そういえばランサーの後を追うように、イリヤスフィールがお茶菓子持参で訪れましたね」

アーチャーの作ったマドレーヌには負けますが、イリヤスフィールの持ってきたフィナンシェも非常に美味でした。
セイバーがまたもや食事に関する記憶を披露する。

「…ずっと家にいたライダーには異常なし。だが昼だけこの家にいた俺と、その時一緒にいたセイバーには異常あり」

昼、と言う時間帯に限定すると、ランサーのほかにも、何か重要なイレギュラーが存在していたような気がする。

「遠坂の嬢ちゃんはいない。だが、無用なトラブルを好み、かつ強力な力を持ち、衛宮の屋敷に違和感なく入り込める魔術師と言えば…」

「「「…あ」」」

ここにきてセイバーも遠坂も桜も気付いたのだろう。

くわっと、ランサーの目が確信を得たとばかりに見開かれる。




「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンかぁっ!!!!!」




負け犬の遠吠えにも似た叫びに、ランサーの声だけが悲しく残響した。


















9話にしてようやく原因判明ですか。
長いよ。
しかもイリヤですか。
あの子しかいないって。遠坂先輩じゃなければ。
あの白い悪魔っこ。















 

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