それは騎士団にも深く後見している、とある裕福な商人からの嘆願書だった。

曰く、


『最近巷で噂の怪盗の動向は目に余るものである。

ロックアックスの人々の生活を脅かす存在としてこれは無視できないものであると認めるほかない

即刻、この卑しき怪盗の捕縛を願いたい』

そんな感じの内容である。


紙面通りに受け取るのであれば、住民の脅かす存在を許す事の出来ない正義感の強い善良な商人である。

しかし、

この渦中の怪盗、所謂『義賊』と呼ばれている人種であり、貧富の差が割合激しいこの地で、

比較的歓迎すべき存在であった。

労働階級の人々には決して害を与えない。

それどころか、ぬくぬくと私腹を肥やす事しか頭にない貴族や、不正や賄賂で富を築いた商人の財を少々、

方法は問題あるが、それを本来あるべき場所へと還しているのである。

たまに、私用で働いた罪もあるらしいが。

娯楽の少ないこの地では、住民達の新しい微笑ましい話題として提供されている。

嘆願にまでして、罰する必要はないのだ。

人々が明るい話題として捕らえているのだから(仮にも怪盗相手にそれもどうかと思うが)



問題は、その義賊である怪盗よりも、嘆願書を出したとある商人の後ろ盾が白騎士団の重鎮だということか…。





**********



「まあ、面倒くさい事件であるということかな」

目の前で渋面をつくっている友人が入れてくれた紅茶を口に運びつつ、カミューは鬱陶しそうに言葉を零した。

こうしてきちんと書類に目を通したはいいが、どうやら思っていたよりも厄介な事件であるらしい。

義賊であるらしいという怪盗にしか興味のなかったカミューは、改めて連ねてある名が及ぼす影響を考える。

「事件に対して面倒くさいとは何事だ。不謹慎だぞ」

生真面目にカミューの零した言葉を返すと、マイクロトフは足を組み替えた。

直情的な外見と性格に騙されがちだが、意外と所作は綺麗な男である。

そんな事をぼんやりと思いながら、カミューは机に置かれた書類を指で弾いた。

「だって面倒くさくないか?わざわざ騎士団を舞台にあげてまで取り上げる事件じゃないだろう?」


この地では、騎士団と言うのは軽々しく扱って良い存在ではない。

少なくとも、カミューはそう思ってるし、きっと、…いや確実に目の前の友人もそうだろう。

この街において、騎士とは最も誇り高く、高潔に、敬われるべき存在なのだ。

そのロックアックスの象徴とも言える騎士団を、ただ私用のために使うなどとは騎士団の誇りに関る。

民の為に騎士団が動く事は厭わないが、たかが強欲な個人の為に利用される事が許せないのだ。

軽く指を組み、カミューは深く息を吐く。

「…確かに、そこまで事を荒立てる必要はないと思うが…」

珍しく言いよどむマイクロトフに、しかし畳み掛けるようにカミューが口を開いた。

「それに、砕いて言うと要するに、騎士団に私財を死守しろってことだろう?これだからなまじ力のある商人は…」

権力を振りかざし、暴挙に出る貴族や商人を殊更嫌うカミューは、はっきりと嫌悪の色を濃く表わした。

「…カミュー」

「たかが怪盗一人捕縛するために、騎士団をわざわざ動かすなと言いたいね。しかも動機が不純だ」

「落ち着けよカミュー。まだ正式に任務が下された訳ではあるまい?ゴルドー様とてそう軽々しく騎士団を動かすとは

思わん」

「…まあね。しかしこの商人の後ろ盾、ちょっと厄介なんだよ」

秀でた額にかかる髪を鬱陶しげに振り払うと、紙面を見易いようにマイクロトフに向けた。

「ここの署名、見て御覧よ」

示された名を認めた途端、マイクロトフの眉が盛大に寄った。

「とても分かり易い反応ありがとう」

相変わらずの反応に、カミューの口元が少し綻ぶ。

「…ウルサイ。…しかし、うむ、確かに面倒くさい相手だな」

神経質そうな筆跡のサインを指でなぞると、マイクロトフは深く息を吐いた。

「ほらみろ、お前だって面倒くさいと言ったじゃないか。自分だけ棚に上げようなんて騎士らしくないぞ」

「…騎士を例にあげるな。全く、お前の方がよっぽど騎士を軽んじている気がするぞ」

その言葉に、今度はカミューが不機嫌そうに口元を歪めた。

「失礼な奴だな。私ほどこの騎士団の未来を案じ、かつ愛している者はどこを探してもいないぞ。敬って崇めろ」

「ああはいはい悪かった。それと最後のは余計だ。ところで、…どうするんだこれ」

言いながら妙なポーズを作ったカミューを軽く小突くと、マイクロトフは嘆願書を押し返した。






2>>3





開かない箱の開け方




なんだか赤い人(推定カミュー)が熱い奴です。
その上マイクさんがなんだか大人です。
うわーんこんなの騎士じゃナイヨー。

そう思ったお嬢さん、奇遇ですな私もそう思いますよレディ(アンタ何者)
カミューさんはもっと冷めていると思います。
でも何故かこうなってしまったのでその辺は生暖かい目で見守ってやって頂けるとてもとても喜びます。

しかしなんだか視点がちぐはぐですな。
でも視点を赤い人なんかにしてしまうと、恐らくきっと青い人のことばっかり考えちゃって、
ちくしょう(?)このほ○がぁっ!!!と、書いてる本人までイライラするので止めときます。
なぜに作者の思惑を外れて赤い人が暴走するのか…。